金麦を飲む

無職になったので、日記をつけようと思います。

無職日記 なんのゆえかの

今日は元恋人と遊んだ。 

別れたのは9ヶ月前くらいで、別れて以来会ったのはおそらく二度目だった。
一度目は向こうから誘われて、ナンおかわり自由のカレー屋に行って、ナンの語感でずっとけらけら笑っていた。
お互いが帰りやすい駅まで少し歩いて、その駅のホームで、私の乗る電車が来た瞬間にぎりぎりで手をつないだ。
電車が到着したのでスッと手を離し、私は電車に乗り、そのまま数ヶ月が過ぎての今回。

二度目の今回、食事をすることになったのは向こうからの申し出で、何やら仕事がひと段落して「会いたい人に会おうと思った」らしい。
そんなことを言われてももう大人(アラサー)なので、はいはいと思いながら「おーそうだねーいいねー」みたいな感じで返しての今夜だった。

ご飯を食べようと新宿駅に集まりつつ、少し早い時間から会うことになったので、あんまりお腹が空いておらずとりあえずルノアールに入った。
そのまま2時間ほど話していたら小腹が空いてきたので、回転寿司がちょうどいいのではということになり、向かう最中で、西武新宿駅近辺のストリートでめちゃくちゃかっこいいファンクをやっているバンドに出会う。
思わず立ち止まり、感情の赴くままに「うわかっこいい」などと言っていたら、パフォーマンスで集まってる人だかりの中心を、超絶急いでいたらしいサラリーマンが俊足で駆け抜けた。
あまりの速さに、見ていた人たちも「今の何?」という雰囲気で呆気に取られていた中、私と元恋人とだけがツボにハマってずっと笑い続けていた。
彼は笑い過ぎて、私に寄り添ってなんなら若干泣いていた。相変わらずアホだと思って安心した。


そのあと、冷房が苦手でお腹が弱い彼の提案で、コーヒーを買って外で飲みながらゆるゆると話した。
今夜は素晴らしく過ごしやすく、Suicaペンギンの銅像やらなんやらが建てられた駅チカのその場所は風がよく通った。
こんな場所ならいつまでもいくらでもいられるとか、こうしてぼんやり涼んでいるのはすごく夏っぽいとか、そんなようなことをぼんやりと話していた。
私は無言の時間も好きなのでちょうどよく、ただ、付き合っていた頃の彼はとてもよく喋る人だったので、無言になるのは大丈夫なんだろうかと思いながら、私は私のぼんやりしたさを優先した。と言うのは、嫌な無言ではないことが分かっていたからでもある。

まったりしていたらお互いに眠くなり、テイクアウトのコーヒーも早々になくなって、駅に向かった。

私と彼とは同じ路線ではなく、私の乗る路線の改札前で「じゃあまた」と言うと、彼は「うん、また」「今日はありがとう」「楽しかった」と言った。
おう、と思いながら「そうね、うん」と言うと、彼はささやかに「また遊ぶ?」と聞き、私は同じく「そうね、うん」と返しながら改札へ向かった。

「また遊ぶ?」って、なんだよソレ、と思いながら、まあそれでいいのだと思う。
私の隣には今、誰もいないし、彼の隣にも今、誰もいない。
それでいて私たちはお互いにあと一歩を踏み出さない。
お互いのことをとても分かっているゆえに、お互いに、その選択をしている。

ただ告白をするとか、ただ抱きつくとか、そういうことがもうできない関係で、それでも「また遊ぶ?」とか言ってしまう彼の素直さが嬉しくもあり、せめてもの抵抗でテキトーそうに返事をするのは私の、なんのゆえかの精いっぱいだった。