金麦を飲む

無職になったので、日記をつけようと思います。

無職日記 10日目

日中暑すぎて何もする気が起きず、とは言えパソコンには向かいながら、だらだらと汗だけをかいていた。うちわであおぎ続けても暑い、とは言えエアコンも苦手でつけるのに抵抗がある、部屋中の窓という窓を開けて換気扇をつけて、扇風機を回しても暑い。生まれて初めて声に出して「どうしたらいいんだ」と言った。今日は人に会わない日だったので、声に出したのはそれだけ。

夜になって涼しくなって「助かった」と心底思う。夏は本当に苦手。


涼しくなったことだし仕事をしよう、とようやく前向きな気持ちになったのに、朝から起きてはいたせいで、しっかりと眠くなり、うたた寝してから23時頃に目がさめる。そこからなんとなく、以前の出勤時間くらいまで起きている。

今から仕事をするか、ここから2,3時間仮眠をとってから仕事をするか、悩む。ただ、仮眠をとった場合、目がさめた頃にはまた死ぬほど暑くなっているのではと思うとすでに憂うつになる。


それはそうと、うたた寝から起きてツイッターを開いたら、全く知らない人から突然、気軽な感じで話しかけられていて、若干おののいた。

その人のフォロー欄を見ると、おそらくアカウントを作成したばかりで、私のフォローしている人の中からフォローしていったと見られる。

なんとなく、共通の話題だとかニュースへの意見だとか、何か同じ状況を踏まえた人だったら返信するかもしれないけど、この人はなんだか、一方的に私のことを知っている感じがして、とてつもなく怪しい。

何であれ一方的にというのは恐ろしく、何が一番恐ろしいかって、向こうはそれを一方的だと思っていないことだ。まあ別に危ないわけでもないだろうけど、悲痛な事件もあったことだし、立場は全然、全く、まるっきり違うけど、それなりに気は遣う。怖いものは、怖い。



無職日記 9日目

今日も10時に起きた。

昨日の夜、前職の上司から単発の仕事を持ちかけられた。

前職を辞める際、仕事があったらくださいと、恥も外聞もなく口酸っぱく言っていたら、急に「社長と話をしたと聞きました」「今ちょっと頼みたいことがあって」みたいな連絡が来ていた。社長にそんな話はしていない。


社長にそのような話はしておりませんと、おそらく思い違いである旨を伝えつつ、仕事についてはぜひと答えた。

会社勤めしていた頃よりも、世の中への感謝が深い。と同時に世の中くそだなと思う頻度も高い。


昨夜はスナック勤務だった。

私の職業について「こうあるべきだ」という姿を押し付けてくるマンが二人も来店してさあ大変という心境で、接客しながらどんぐりころころのエンドレスリピートだった。

一人は二回目に会う人で、もう一人は完全に気に入られてしまって毎週来てくれる人だ。ありがたいのだけど、後者の方が、どんぐりころころ度は高い。

ただ昨夜はそれほど大変でなく、なぜか「剛力彩芽さん自身は何も悪くない」という話をした。


先週連日の勤務だった私をママさんが気遣ってくれたのと、まあお客さんが少なかったのとで、少し早めに上がらせてもらった。と言っても12時だけど、それなりにうれしい。


最寄駅に着いて、家に向かう道すがら、ふと気づいた。

会社を辞めてから、男の人の、人間の部分を見ることが少なくなった。

「人間の部分」というのは「男」以外の部分という意味で、生き物らしいかどうかと問われればなんなら真逆の部分かもしれない。男性性があまり関与してこないところ。


会社を辞めてからそうした部分を見ることが少なくなったと言っても、会社で男女を感じる瞬間がないというわけでは全然なく、世間の皆様の感覚同様、むしろ多いとは思う。抑圧もされるし、晒されもするし、前提の部分に根深く存在したりする。

のだけど、仕事に向き合う時、忙しい時や難しい問題にぶち当たって考えている時など、多くの人は男性性も女性性も纏っていない気がする。

とても雑に言えば、わき目もふらず真面目になっている時というのは、男性も女性も、とても人間らしいんじゃないか。


そんなことを考えながら電車に乗ると、アジア系の外国を感じさせる美女が、つり革につかまりながら自撮りしていた。画面の中で微笑む彼女を堂々と盗み見ながら、全然バレないことにドキドキした。

すると私と同じく、画面の彼女を見つめている人がいた。和風の大胆な柄の入ったシャツを着たその人の、腕に大きく入った刺青の文字を読もうと、私はまたも堂々と盗み見した。

彼は自撮りの彼女を見るのに夢中だったので、まじまじと、なんなら見えやすいところに頭を動かしながら読むことができたけど、そこには「薩摩陀」と書いてあって、読めたところで分からんなと思った。思いながらググった。やはり意味は分からなかったので、諦めて、窓の外を眺めた。


無職日記 8日目

今日は10時くらいに起きた。

10時間後くらいのスナック勤務を思うと早速気が重かった。

ウインナーと白菜のスープを作りながら食べながら携帯を見ると、いくつかの連絡が来ていた。

 

一つは先日事務所に泊まらせてもらった年上の友人からで、昨日の深夜に来ていたけど私はそれを読まずに眠っていた。映像やらお店やらいろんな仕事をしている人で、道端に食べものが落ちているのを見ると、聖書の一節を思い出す(そして拾って食べる)という人だ。

昨夜聖書さんとやりとりをしていて、もしかすると仕事を少し手伝うかもしれない流れになった。実際にできるかどうかは私の求職活動の進捗によるけど、やることになったら面白そうだと思う。そんなようなことを返した。

 

もう一つは、自分のことを「女子っぽい」と自称するアラフォー男性からだった。女子ぶる男性は、まず攻撃したくなる。何を以て「女子」としているのかが、まず怪しい。

女子ぶりさんは、よく映画を観る人で、どうやら映画館で流れた予告編を観て、私が気に入りそうだと思って知らせてくれたらしい。普通にいい人だ。

その映画はすでに私もチェックしていて、あと数日で公開になるものだった。前売り券を買うとついてくる、80年代風のステッカー(ステレオテニスさんという素敵なイラストレーターさん作)を手に入れたくて、前売り券を購入しようと思っていたのに忘れていた。という旨を女子ぶりさんにも伝える。

すると「ステッカー知らなかった。超かわいい」と返信が来た。この人の中での「女子」はそういうことなのかもしれない。

 

そして私がスナックで働かざるを得なくなった理由である、家賃の更新料支払う問題について、無事解決したかと「(笑)」混じりで聞かれ、ああ、はい、解決しましたよと半ばうんざりしながら答える。

なぜうんざりするのかと言えば、この「(笑)」は「じゃあ飲みに行こう」に繋がることが見えているからで、その誘いには乗りたくないからだった。なぜ飲みの誘いに繋がるであろうことが想像されるかと言うと、この人には一度、飲み会の代金を数千円多く払ってもらったことがあり、そのことで「いつかおごる」と私が言ったため、それ以来、金銭的事情を聞く→飲みに誘う(おごれ)という図式ができているからだ。

おごることが嫌なのではなく、それは本当にいつかおごらねばと思っているのでよいのだけど、誘いに乗りたくないのは、その人と飲みに行くと妙な空気を出してくるからだった。

3回ほど飲みに行き、最後に飲んだ店ではカウンターに座った。店内は俄然空いていたけど、店員が要らぬ気を利かせ「カウンター空いてますよ」と告げてくれて、そこへ座ることになった。

カウンターの一番奥に座った私は、終始お尻の半分のみを椅子に乗せ、出来る限りの距離をとったまま、この人と二人で飲むのはやめよう、少なくとも減らそう、と思った。

そういう人からの連絡だったので、そこそこそっけなく返信した。

 

昼過ぎ、PCで履歴書を作っていたら、南国さんから「うーん、ジャイアンみたいな?」と連絡が来た。

一体何を言っているんだ、と思ったら、私が昨夜南国さんに対して「心の友いないんですか?」と聞いていたのだった。失礼だ。もちろん酔っぱらっていた。

反省しながら、「ジャイアンは言う側なので、どちらかと言うとのび太でしょうか」と返すと、律儀に「自分にとってののび太…」と考えてくれて、結果、思い当たる節はないとのこと。のび太はなかなかいませんよね、と返した。

ジャイアンのび太と言うより、ドラえもんのび太の関係性が「心の友」なんじゃないかと思ったけど、それは言わなかった。前者でも映画版なら当てはまるような気がする。

今日から南国さんは東京を離れるらしく、あと1時間くらいしたら家を出るけれどもまだ荷造りをしていないと言う。パンツ持ってくといいですよ、とかなり雑に返信すると、「この旅人にそんなことを言うのか」「ドライ納豆とかだよ」と連絡が来て、そういえば旅慣れている人だったと思い、謝る。ドライ納豆はいい案だと思った。

 

そのあと、突発的にやってきた仕事に手を付けねばと思いPCに向かう。

なかなか集中できずに、数日前、仕事仲間の女性からもらったLINEを見返す。

それは、その女性とは長年の知り合いだけど私とは面識のない方が、私に仕事をくれるかもしれないという連絡だった。仕事をふる前に、どういう人か知りたいので紹介してほしいとのことで、大変ありがたいなと思いながらその日中に返信した。

 

 

こうして数日、無職日記を書いていると、私はどれだけ南国さんと連絡を取り合っているんだという気がしてくる。実際には、直近会ったばかりなのでやり取りが続いているだけで、普段はそんなことはない。と言うのと、ここで「南国さん」と名づけたのが少し気に入ってしまって、つい登場させてしまう。

明日はいろんな人に会う。楽しみな一日。

無職日記 7日目

今日は6時台に起きて、何度か寝て起きてを繰り返して、結局8時半くらいに起きた。

お腹が空いてないまま冷蔵庫を開けて、豆腐を食べようかと思ったけど、やめてりんごジュースを飲んで煙草を吸った。

なんとなく、起きた朝の感じが昨日よりもマシだ。


10時頃、西友に証明写真を撮りに行った。

美白効果とかいうふざけた(しかしありがたい)機能が付いていたせいか、1シート900円もした。「美白効果は男性にもお勧めです!」って、だったらもうデフォルトにしろよと思う。要は明るい印象になるってことだろう。

証明写真用に、白いブラウスを着ようと思った。ら、白いシャツがあったので、そちらにした。

古書店で働いていた頃にお客さんからもらった、タキシード用か何かの、だいぶ大きいサイズのシャツ。おそらくその家の亡くなったご主人のものだと思う。


それを着て、写真を撮って、帰って別の服に着替えて履歴書に貼って、次の仕事に向けた面談へ行った。

相手は25歳だった。


暑いですね、なんていう会話から、何駅から来たかという質問になり、なぜか嘘を答えてしまう。

本当は一番近い地下鉄の駅から5分くらい歩いて来たのに、少し遠いJRの駅から15分ほど歩いて来たという、自分でも意図がつかめない嘘をついた。

まさかタフネスを売りにしたいのか?と思い、相手に悟られないようコンマ2秒くらいだけヘコんだ。こういう、全く無益な嘘をついてしまうことがままある。


25歳の薄緑Tシャツを着た男性は、やや緊張したアラサー(私)を前に「ラフティングって知ってます?」と唐突に聞いた。アイスブレイクというやつだなーと思った。前職でなぜか一時期、営業として一人立ちするように仕込まれ(かけ)たことがあり、その時に教えられた。本題へと移る前にまずは相手の心を溶かす、話術というか作法というか。場所、天気、目に入ったインテリアやPCのシール。内容はなんでもいい。


ラフティングを知ってるかという質問に対して「あ、はい、川下りの、カヌーとかの」と答えながら、私の気持ちは相手の目的から少しずれたところにいた。

19歳の頃、ラフティングやらカヌーやらの好きな子が身近にいた。アクティブなことが好きなわりにはポジティブな人間でもなく、人間として欠陥があると自分で言っていたし、私もそうだと思ったし、周りもそうだと思っていた。それでもみんなその子のことが好きだった。酒で身を崩すぞとみんなに心配されていた。多いに欠陥があり、多いに魅力的な子だった。


面談の最後に、いつ合否の連絡をくれるのか質問した。

採用であれば一週間以内に、不採用であれば連絡はないとのこと。

不採用であれば連絡しないって、よくあるけれども、考えるほどになんて理不尽なんだと思う。こっちは手書きで履歴書書いてんだよと、手書きで用意してるからには数時間かかってんだよと思う。会って話してみないと分からないことだらけなのはあちらもこちらも一緒なのだから、結果がどうあれ連絡するくらいのコストは支払うべきだ。

などと思いながら、そんなことは少しも表情には出さず、帰ってきた。くだらない嘘のつじつまを合わせるように、少し遠いJRの駅まで歩いた。


帰り道、携帯のYahoo災害アプリで豪雨の予報が届き、こんなにも晴天なのにと思いながら早足で帰宅すると、すぐにひどい夕立ちがやってきて、家の中の素晴らしい安全さに思いを馳せた。

世の中なんてやっぱりろくなもんじゃなさそうだと思いながら、餃子を焼いて食べた。


無職日記 6日目

今日は10時頃に起きた。

昨日酔って買った冷凍のお好み焼きを食べたり、映画を観たりした。

ぼんやりしていると、今朝4時頃に送られたらしきメールが時間差で届いた。

最近、こういうことがよくある。携帯の速度制限のせいかと思っていたけど、7月になっても起きたので、ちょっともうよく分からない。


メールは、昨夜一緒に飲んだ、友人というか、先輩という感じの方からだった。昨夜の私を見て、少し気分が参っているのではと心配してくださったようだ。

気分が参っているのは、スナック勤務と、左の奥歯の歯茎が腫れて痛いのと、この暑さのせいだ。深呼吸をしても煙草を吸ってもすっきりしない。買ったばかりのモンステラに、これでもかと滴るほどに霧吹きをかける。


メールをくれたその人は、餅つきが似合うので、お餅さんと呼ぶことにしてみる。餅をついているところを見たことは一度もない。


お餅さん曰く、なんでも一人でなんとかするというのは、とても疲れるし、つまらないことだと言う。時には信頼する人に寄りかかった方がいいよと、それはきっと迷惑ではないはずだから、と。

大変ありがたい言葉だなと思う。だけど、そういうわけにもいかないと思った。

無職になってから、生きづらさに拍車がかかっている。だけど、ずっとこうしたかったような気すらする。私は今、生きづらさに正直でいられて、安心している。


人として好きな人はたくさんいるけど、セックスしたいかどうかは切り離されている。

南国さんのことも、お餅さんのことも、前職の同僚や上司たちも、とても好きだけどセックスをしたいとは思わない。彼らのそういう愛はほしくない。


「私には男が必要だ」と、髪を振り乱して、困り眉を爆発させながら、疲れきったおばあさんのような姿で歌った60年代の彼女は、今の私より3歳も若くして死んだ。

それくらいの年齢の頃、誰といたんだったか、思い出せない。

27歳の誕生日は、確か横浜にいた。横浜出身の、仲良しの女性と一緒に遊んだ。酔ってジェットコースターに乗ったら、大変気持ち悪くなって、楽しかった。

次の年の誕生日も、横浜さんに祝ってもらって、そしたら、なぜか見知らぬ男性が来ることになった。

単に横浜さんと飲みたかったらしいその男性は、横浜さんの家に着くなり、初めて会う私の誕生日会だと知らされて驚いていた。驚きながらも、声色は変えずに、お誕生日おめでとうと言ってフライドチキン味のポテトチップスを差し出したその男性が南国さんだった。面白い顔をした人だなと思った。その日の夜はとても楽しかった。


無職日記 5日目

昨日は無事に6時に起きた。正確には6時過ぎだけど、きちんと間に合うように起きられた。

早くに起きて、少し多めの荷物を抱えて、板橋区の方に行った。

お金をもらうわけではないけど、今の私の仕事のひとつではある。それとも、お金をもらうわけではないなら、仕事とは言えないのか。


無償の仕事って成立するのか、と思って検索してみたら、永六輔がまさに『「無償」の仕事』という本を書いていた。なんというタイミングだ。と思ったけれど、タイミングを合わせに行ったのはこちらで、この本は、ただ世の中に存在していただけだ。


ーー『「無償」(ただ)の仕事』というタイトルを誤解しないでいただきたい。僕の場合、決して、立派な「無償の仕事」ではない。落語のなかのセリフだが「いただけますればいただきますがいただけませんければいただきません」に通じている。ーー


いただけますればいただきますが、いただけませんければいただきません。まあそうだなと思う。

この本はボランティアのことが書いてあるみたいなので、少し違うのかもしれない。

あらゆる本はいつでも私の話し相手になってくれて、だから私は一人じゃないし、ずっと一人でいるような気がする。


「無償の仕事」が終わったのは17時で、途中、ハムと玉子のサンドイッチと、おにぎりを二つ食べた。

久々にコンビニの主食系を食べた。

働いていた頃の、そのまた一時期は、朝ごはんによくこういうものを食べていた。

今は基本的に自炊してしまうからか、コンビニの米やパンを買うことがほとんどない。

働いている人と無職の人の買い物は違うんだなと、他人事のように思った。


用事が終わってから、関わった人たちで新宿で飲んだ。大体5人ほど。

飲み放題1500円の店と、次の店と、二軒行った。

会話はもっぱら、先ほどの仕事の話で、無職のくせに充実していた。

飲んで帰ってくる途中、ぱらっぱらに酔って、コンビニで冷凍のお好み焼きと、ウーロン茶とりんごジュースを買って、帰ってすぐに寝た。

さっき、コンビニの主食系をほとんど買ってないと書いたけど、そういえば冷凍のお好み焼きはめちゃくちゃ買ってる。たらふく飲んで帰ると、なぜか食べたくなる。

名古屋に住んでいた小学生の頃、冷凍のたこ焼きが大好きで、お母さんにたこ焼き食べたいとねだってはチンしてもらい、たいらげて、もうない、たこ焼き食べたい、とまたすぐねだってたことを思い出した。


無職日記 4日目

今日は昼前に起きた。ヨーグルトを食べてから、ツタヤで借りていた『駆け込み女と駆け出し男』を観た。

それなりに楽しんだ。

ただ、この下敷きとなる物語を書いたのも、映画を監督したのも男性だと思うと、それが頭から離れなかった。

女が苦しんでいる。それを描く男。


昨夜、南国さんと、女が人間として見られないという話をした。

終電まではまだまだ時間があり、なんとなく話し足りず、高架下沿いを数駅歩きながら話していた時だった。

南国さんがそんなことを思っているとは思っていなかったので、一人ぼっちの宇宙で誰かと手がふれたような気分になる。

南国さん自身は、男女という括りではなく、別の括りでよく迷惑を被っているようだった。

「分からなさをそのせいにされる」と言っていて、あー、と思った。


私も、南国さんも、同じ業界で仕事をしている。

そういう中で「女性ならではの感性で切り取られた」ホニャララ、みたいな言説はうんざりするほど耳にする。受け手の分からなさを、想像力の届かなさを、そこに落とし込まれる。そういうことを言われると、こいつには何を言っても無駄だ、と思う。まあ、言う側は褒めていることも多いので、「別にいいけど」と思うしかなくなる。


こんなことを話せる男性は珍しい、と言うか、自分発信で話してくる男性は珍しかったので、思いをぶちまけているうちに思わず声色が荒くなって、謝った。

そうしたら南国さんは、いや、怒っていいよ、と言った。

怒っていいよと男性に言われたのは初めてかもしれない。

そんなに怒らないでよ(謝ってるんだから許してよ)としか言われたことない。


とか思いながらスナックに出勤。

明日は6時起き明日は6時起き、と呪文のように唱えながら、終盤、適当な話をしていたお客さんと少しずつ心の距離が近くなって、楽しくなってまいりましたというところで、その人の一番好きなラブサイケデリコの曲が、私の唯一歌えるラブサイケデリコだったので、嬉々としてその曲を入れたら、その直後に帰ることになって、ただただ平謝りしながら終電に飛び乗った。


私が高校生の頃、なぜかカラオケ大会で、イケてる女子や普通の女子と一緒にグループで出場し、歌ったラブサイケデリコ『Last Smile』を、今でも本当に歌えたのかなと思いながら、小さく口ずさみながら帰宅した。

あらゆるタイミングが難しい。